2012年6月17日日曜日
スヴャトスラフ・リヒテルが1970-1973年に録音した
「バッハ・平均率クラヴィーア曲集」 (GD 60949 RCA VICTOR)
バッハの音楽は神聖でなんとなく近寄りがたい思いがする一方、遠い昔、子供の頃母親に抱かれている時のような安堵をもたらしてくれることがある。何か具体的なメッセージのようなものは何も感じないんだけど、幼子イエスを見つめる聖母マリアの優しいまなざしのような安らぎや安心。リヒテルの演奏から特にそういったものを感じる。
この録音はリヒテルの全盛期である1970年代前半にオーストリア、ザルツブルグのクレスハイム宮殿で録音された。残響がとても長くピッチが若干高め。特殊な残響のせいか、音色はやわらかく、純度が高い。
スヴャトスラフ・リヒテル(Sviatoslav Richter、1915-1997)ソビエト出身のピアニスト。1950年代は冷戦の影響で西側での演奏活動がずいぶん制限されたそうだが、1960年頃からソビエト国外での演奏活動や録音も活発になった。現在でも彼の膨大な数のCDが発売されているが、この「バッハ・平均率クラヴィーア曲集」は間違いなく彼の代表作であると思う。
先日98歳で亡くなった音楽評論家、吉田秀和さんの言葉を思い出す。「妻が亡くなった直後は何の音楽も聴く気になれなかった。感情に強く訴えかけてくる音楽から邪魔されずに自分の中に一人でいたいと思った。でもバッハは邪魔しなかったなぁ。」きっと、バッハの音楽には人類が絶えず求め続けている秩序や音楽といった存在を超越した理想郷、そして人間の心の奥深くにある核に直接通じる何かがあるんだと思う。
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